「インターネット概論」の目次

2. インターネットの仕組み

平成9年5月25日午前2時15分版


 この章ではインターネットの仕組みを出来るだけ分かりやすく説明したいと思います. もの(システム)には必ず仕組み(しかけ)があります. ただ規模が大きかったり複雑だとなかなか理解しにくいのは確かです. しかし,仕組みがある程度分かるといろいろと便利です. 特に,そのシステムが将来どのようになるかを考える場合には やはり仕組みを理解しないといけません.

 そのシステムを支えている技術や,そのシステムの目的としている所が分かると 技術のこれからの可能性や重要性から対象とするシステムの将来も ちょっとは見えてくると思います. もちろん,対抗となるシステムや社会的な規制やビジネスの問題などがあって かならずしも予測があたるとはかぎりませんが,それはそれで別の問題です. では説明を始めましょう.

 仕組みは5つの節に分けて説明されますが, 2.5節を除けばいろいろな違う視点からの見方だと思ってください. これらは次回以降の講義でおいおい有機的に理解できるでしょう.


2.1 世界で統一された通信規則で世界にコンピュータをつなぐ

 インターネットを説明する時に一番便利な方法は通信の仕組みを説明して, その中でインターネットがどうなっているかを説明すればいいのですが, ここではちょっと言葉を軟らかくして話をします.もう少し,踏み込んで 技術的な話は次回の「通信の基礎とTCP/IP」でします. と言っても「もう十分難しい」と思われるかもしれませんが頑張って下さい.

 まずコンピュータどうしがネットワークを介して自由に話をするには どうすれば良いかを考えてみます. まずそのためには各コンピュータに独自の名前か番号を付けなければなりません. 名前よりは番号の方がコンピュータには扱いやすいので番号をまず考えます. この番号をIPアドレスといいます.IPという言葉はインターネットのプロトコル (Internet Protocol)の略でしたね.

 コンピュータにはプログラムが動いています.ソフトウェアという言い方もあります. ここではプロセスと言う事にします. ある1つのまとまったプログラムをプロセスという事にします. このプロセスにはワープロや表計算ソフト(スプレッドシートとも言います)のように ユーザが単に使えば良いだけのプロセスもありますが, 電子メイルやファイルの転送のように 通信する相手のプロセスが必要なプロセスもあります(図2-1参照). ワープロでも遠くの文書をネットワークを介して 自由に取り込むといった機能が必要なら相手が必要になります.

プロセス間通信

 この相手をここでは「相手のプロセス」と考えてみましょう. 電子メイルなら電子メイルを扱う私のコンピュータのプロセスと, 相手のコンピュータの電子メイルを扱うプロセスが「お話」をすれば良いのです. 扱うのは電子メイルだと互いに分かっているので 電子メイルでの取り決め(例えば発信人とか受取人とか本文等)のもとで 互いのプロセスが話合います. そうするとコンピュータどうしが自由に話をするのに 独自のコンピュータの番号IPアドレスが必要であったように プロセスにある程度統一的な番号をつければ良い事が分かります. 例えば電子メイルは21番で対話的なファイル転送は18番といったようにです. (次回以後で「ポート番号」という名前で説明します.)

コンピュータ間通信とプロセス間通信

 まとめると我々(実は機械同士が自動的にやっている場合が多いのですが)が ネットワークを通して電子メイルシステムを構築しようとすると, コンピュータの番号とプロセスの番号を取り決めた上で, ネットワーク上に情報を流せばいいことになります. このコンピュータの番号やプロセスの番号の取り決めやその扱い方を決めたものを TCP/IPプロトコルといいます. プロトコルとは何度も言いますが通信上の規則の事です. TCPはプロセスの間での基本的な取り決めで,IPはコンピュータの間の取り決めです. 今回はそれ以上は踏み込みません.

 残る問題はネットワークをデータがどのように流れていくかです. ネットワークが図2-3のようになっていれば コンピュータAからコンピュータBにどのようにデータが流れるかは一意に決まります. でも図2-4のようなネットワークでは, コンピュータBはAから来たデータをC方向に流すために, 実際にはコンピュータAから来たA発C行きのデータをコンピュータCに向かって 流さなければなりません. 図2-5のような一般的なネットワークの場合はもっと複雑で, A発E行きのデータをコンピュータBはコンピュータCかコンピュータDに流すかを 考えなければなりません. このような機能は通信では「交換」機能といいます.英語ではexchangeです.

2つのコンピュータ間通信


木状網のコンピュータ間通信


ループのある網のコンピュータ間通信

 この機能はコンピュータ間の通信の取り決めなので 先程述べたIPプロトコルで取り決められます. インターネットでは実際にはルータ(router)と称するネットワーク機器が このような交換機能を実現してくれます. このようなネットワーク機器も内部はコンピュータですから, 普通のワークステーションと呼ばれるコンピュータでも交換機能は実現できます.

 コンピュータ間の取り決めのIPと, プロセス間の基本的な取り決めのTCPと(実はUDPという取り決めもあります), 各プロセスに固有の取り決めがあるので, インターネットでは電子メイル等が自由にネットワークの中を通って相手に届きます. この中でIPの部分はいろいろと問題が出て来ました. マルチキャストの事はこの章の最後で話すとして,大きな問題が2つあります. 1つは経路制御ですが,もう1つの大きな問題はIPアドレスの数です. (経路制御の話はあとで!)

 現在のIPアドレスは32ビットで表されます. 32ビットは2の32乗となりますからIPアドレスの総数は大体40億ぐらいになります. 世界の人口より少ないと考えて下さい. 俗にいうコンピュータがインターネットに接続する台数の増加だけでも これから急増が予想されますが, 更に車や自動販売機や冷蔵庫や電子レンジがインターネットに接続されるようになると, この40億個の番号では足りなくなることが明らかです.(IPアドレスの枯渇問題). 現在IPアドレスを128ビットにする案が提案され, 実現に向けて検討と実験が始まっています.


2.2 いろいろなネットワークを使うインターネット

 コンピュータの番号とプロセスの番号とプロセスの間の取り決めを守れば 接続は出来ると2.1節で話しました. ではどのようなネットワークがインターネットでは使えるのでしょうか. 結論からいうとどんなネットワークでも上の取り決め(プロトコル)を守れば インターネット上でデータが送れ,従って電子メイル等が出来ます.

インターネットで使われるネットワークには

等があります.それぞれに通信速度を書きましたが,あくまでも参考にして下さい. この説明だけで時間が掛かるので,今回はちょっとスキップします.

 これらのネットワークは構内で使われたり広域で使われたり, または移動形態で使われたりとそれぞれのネットワークの特性を生かして使います. 組織としてのネットワーク(イントラネット)を構築するためのネットワークは, 上記の内で

が使えます. 構内でも建物間の場合は落雷の危険があるので,光ファイバーが必要になります.

 ネットワークはいくつかの分類が出来ます. また,その分類からインターネットをどのように構築するかを決めたり, またどのようにすれば便利に利用できるかが分かります. 大きな分類としては以下のような分け方があります.

 ネットワークを構内で組む場合には建物の中か,建物間かで違いがでます. 1つには距離の問題と,雷の問題です. 有線のネットワークでは最近では管理の立場と変更の容易さから 集中的に線をまとめて管理する方向でネットワークは設計されています. また画像ファイルの転送のように転送されるトラフィックが増えつつあるので, 1つのLANに多くのコンピュータがぶらさがる(バス型といいます)方式よりは, 1つのコンピュータに流れるトラフィックと出来るだけ保証するスター型(星型)の接続で スイッチング型のネットワーク機器をいれるようです.

 インターネットでは有線の接続が一般的ですが, 無線を使う事が徐々に増えつつあります. 部屋の中では無線LANという使い方があり,電話も携帯電話やPHSがあります. また衛星通信も放送型の使い方にはこれから使われると考えられます. 携帯電話やPHSは移動型通信の強力な道具となります. 個人用のコンピュータもますます高機能を保ちながらも小型化するので, このような移動型のコンピュータ環境は面白いものになるでしょう. PHSのデータ通信もこの4月から使えるようになりました. 携帯電話に比べて通信速度も速くできそうですし,料金も安いので これからの大きな武器になるでしょう. PHSは組織の中だけで使えば料金は無料なので, そのような利用法がこれから出てくるでしょう.

 この2.2節の話しはまた,「情報システム」の章で話す事になります. ただ,3ヵ月が従来の1年に等しいと言われる今のインターネット技術の進歩では, 「情報システム」を話すつもりの来年1月あたりでは, また新しい事が起こっているでしょう. 余談ですが,セキュリティだと 更に「今日正しい事が明日は正しいとは限らない」という格言^_^もあります.

 この節で理解して欲しいのは, インターネットではいろいろなネットワークが使えるという点です.


2.3 プロバイダーとドメイン

 現時点でのインターネットの仕組みを組織構成の面からみてみましょう. インターネットの組織上の最小の構成はユーザでしょう. ユーザが集まってドメインと呼んでいる企業や大学等の1単位としての組織があります. 個人が商用のプロバイダーに入っている場合もありますね. このような商用個人接続のプロバイダも上の意味では1つの組織です. インターネットはこのドメインを相互に接続する事で実現されています. このドメイン数も日本だけでも2万ありますから, これらのドメインを相互に接続する事は大変な事になります.

そこでこのような相互接続をサポートする組織としてプロバイダーが 現れました.特にアメリカでは1990年頃から,日本では1993年といわれる インターネットの商用化とともに,NSP(Network Service Provider)や ISP(Internet Service Provider)のような名前で営利企業としてドメイン 間のインターネットのトラフィックを運ぶ組織が出てきました.

プロバイダとドメイン

 図2-6はプロバイダにドメインが接続し, プロバイダ間で所属しているドメイン情報を交換して, インターネットの到達性(reachability)を確保している事を示すイメージ図です.


2.3.1 ドメイン

インターネットではユーザは1回目でも話したように 何処かの組織(ドメイン)に所属する事になっています. 例えば私は大阪市立大学に勤務していますので

osaka-cu.ac.jp

で表現された組織に属します.このドメインの表記は後ろから読んで解釈して ください.最後の

jp

は日本を,次の
ac

はacademicを示します. 大学などの学校や教育機関の事で,他には があります.この内のorのネットワーク接続組織は新たに,
ne

という第2レベル(第1レベルまたはトップレベルは「jp」です)が出来ています. また もあります.例としてあげてみると があります.このような分け方は属性という言葉で呼ばれている分け方です. 日本以外でもこのような分け方をドメイン名の後ろにつけている国はたくさん あります.インターネットはアメリカから始まっており,そのアメリカでは のように名前がついています.最後のcert.orgはインターネットでのクラッカー や侵入者からのアタックに対する警告機関(Computer Emergency Responce Team) です.

 上の話で,comは(orgもでしょうね)はすでにアメリカのという意味より, 「世界の企業の」という意味になっており, 日本でもこの下にドメイン名を取って企業や個人は多くあります. 最近,新たに7つほどの世界で通じる「トップレベル」のドメイン名が決まりましたね.

 ドメイン名は,その属性が妥当である事を示して希望する名前を申請すれば 取得(同じ名前がないか等は審査されます)出来ます. 名前を取得すれば所定の期間中にインターネットに接続すれば 正式に(接続状態:connected)としてインターネットに登録されます.

 どのような名前をつけるかはJUNET時代も問題になっていました. 簡単で覚えやすい方が良いですし, もちろん組織の名前や略称がそのまま使えれば良いのですが, そのような名前には限りがあるのではやいもの勝ちの所はあります. 3文字の名前や良くある名前はそのような傾向があるのは仕方がない事です. また小学校や中学校のように土地の名前に由来する所でも, 同じ名前の土地名は多くあるので, この場合はどちらが早く名前を取ったという問題ではありません. 例えば私は高松小学校と言う所を卒業していますが, 大阪市阿倍野区の小学校なので,

takamatsu.ac.jp

と取ると,知っている人以外は香川県にある学校関係だと思うでしょう. (現在は高校以下は以下に述べる地域ドメインを使う事になります.)

 このため地域ドメイン名および個人ドメイン名が使えます. これは,上記の属性別ドメイン名でなく, jpの前に都道府県名または政令指定都市名をつけるものです.

のような風になります.大阪や京都のように府も市も同じ名前の場合は同じ を使う事になります.地域に根ざした組織は地域ドメイン名として, また個人としては個人ドメイン名として上記のようなドメイン表記をします. 都道府県の場合はその下に市の名前を, 政令指定都市の場合は下に区の名前が入る事になります. アメリカでは
ca.us  アメリカのカリフォルニア州

のような形で使われています. ただこの地域・個人ドメイン名は日本では始まったばかりであり, これから議論しなければいけないことはたくさんあります. 属性はインターネットが初期のころ研究ネットワークであった事をひきずっています. しかし現在のようにすべても業種が,また組織だけでなく個人も入ってきて, 更には業種で分けるのでなく地域でも分けるとなると難しい問題が山積しています. 企業も何が本業の業種かは変わりますし企業名も変わっていきます.本社の位置も 対象とする地域も変化するし,個人も住所は変わっていきます.

また各組織はその組織で決めたルールで下位の組織構造を記述していきます. たとえば工学部なら

eng.osaka-cu.ac.jp

という風に下位のサブドメイン名を決めればいいのです. 一般には誰が見ても分かるような名前が私は良いと思っていますが, これは各組織の自由です.


2.3.2 プロバイダー

インターネットにおけるプロバイダーの定義は難しいものがあります. 名前の通り説明するとインターネットのサービスを提供するのがNSPまたはISPでしょう.  話を日本の中に限ると大きく分けて となると今は考えています. もちろん,このように厳密に分かれるものではないと思います. 最後の3次プロバイダーは「街のプロバイダー」と私は呼んでいます. インターネットとしては広い意味でのこれらのプロバイダーが それぞれの役割の応じてインターネット的接続の有用性を広めてもらえればと 思っています.

プロバイダーをその目的別で考えるのも面白いと思います.

等のように分かれるでしょう.


2.4 サーバとクライアント

インターネットはいろいろなネットワークが接続されて実現されていると2.2節で話しました. 各組織や個人のドメインやプロバイダー等(実際にはJPNICやNIC等の 取りまとめの組織があります.)があるとも2.3節では述べました. コンピュータとしては, サーバと言われるコンピュータ群が相互に情報を交換しながら インターネットのサービスを行っていると思ってください. そのサーバに各ユーザ(クライアント)のコンピュータが情報を取りにいったり, 情報を送ったりします. その意味ではインターネットは図のように, このサーバとクライアントのための通路だと考えられます.

 1つのコンピュータが複数のサーバ機能をしたり, クライアントの機能も持っていたりするので,図のように簡単な構造ではないのでが, まあこのようなものだと思ってください. サーバにはメイル・サーバやニュース・サーバやWWWサーバのように 分かりやすいサーバもありますが,Name Serverのように非常に大切なサーバ なのですが(これがないとインターネット接続が出来ません), 管理者だけが理解して正しく運用しておけば良いサーバもあります.

 インターネットはネットワークなので, それに関連した電子メイルや電子ニュースのサーバを取り上げていますが, これからはスケジュール管理サーバとか会議室管理サーバとか, 仕事に関連したものもサーバと呼ばれるようになるかもしれません. これらは単にデータベースと呼べば良いような気もされるでしょうが, ネットワーク環境でいろいろなサーバが連絡するようになるので, サーバと呼んだほうがよいでしょう. スケジュール管理サーバを使う場合も会議室の予約状況を聞いたりするからです.

 クライアントは例えばNetscape Navigatorのように1つのソフトの中で いろいろなサーバを呼べるようになる可能性もあります. ユーザにとってはより簡単に, より便利になれば良いので(更に高速にとか効率良くとかありますが) 1つのソフトウェアで全てが出来れば嬉しいのですが, 「あれ」を見ながら「これ」もしたいという風に私のように複数の仕事をしているものにとっては, いろいろなクライアントがあって選べる(ついでに細工出来るともっと嬉しい) のも方向としてはあって欲しいものです.


2.5 メーリングリストとマルチキャスト

 前節ではサーバとクライアントのどちらかと言うと主と従の関係をと取り上げました. インターネットでは1対1で対等なだけでなく, 特定の複数の人が対等になる仕組みがあります. 1つの分かりやすい例は,メーリングリストですね. 複数の人達が同じ電子メイルを受信する事で話題を共有して議論や話を進めていきます. メーリングリスト自体は「ネットワーク・アプリケーション」の 「電子メール」の項でまた取り上げます.

 複数の人が同時に参加出来るものとしては, パソコン通信のchat(おしゃべり)モードがありますし,そのインターネット版として

IRC(Internet Relay Chat)

があります. いろいろなテーマで好きな時に参加しておしゃべりを楽しんでいるようです. (私はまだ体験していませんが雰囲気は参加している人達で分かります.) 阪神淡路大震災でもこのIRCは最初から活躍しています. このIRCは,ホームページの仕組みでも出来るので,最近はこれも多いようです. 良くアクセスされつホームページの記録を取ってみると分かります.

 複数の人が同時にという概念を少し学問的に考えてみましょう. 通信の世界では電話は1対1通信で双方向通信とされています. また,テレビやラジオは放送(1対他)で片方向通信と考えられています. 所がメーリングリストやIRCは特定のグループの通信ですね. このような概念は難しい言葉ですが,

と覚えてください.

 このマルチキャストの考え方は特定のコンピュータをグループにして, 同じ情報を流すものとして, インターネットでテレビ会議をするとか, ロック音楽の実況放送等に使われています. 難しい仕組みの話は省きますが, このようにインターネットは新しい概念を新しい技術で克服しながら 採り入れている中の1つがこのマルチキャストです.


TCP:Transmission Control Protocolの事です. 3回目以降の講義で出て来ますが,プロセスに共通の通信規則で 言葉のように制御機能があるとまずは思って下さい.
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