大阪市立大学の歴史
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186資料ることに意を用いられたのであつた。その結果、大阪商大においては、そのような河田学長の意向がおのづと実現されて、その特色の一つを形成したのであつたが、大阪商大における法律学の教授陣を基礎として成立した大阪市大法文学部の法学科においても、法律学の研究・教育が経済学及び商学の研究・教育との間に密接なつながりを保ちつゝ行われることによつて一つの特色を発揮するであろうと期待される。特に大阪市との地域的関係の上から見ると、行政学や地方自治法の外に、民、商法、労働法その他の産業経済関係の法域に重点を置き、慣行の調査に努力し、いわゆる生きた法の研究・教育を行うことが志向されるであろう。 文学科は大阪商大の予科ならびに高等商業部の教授陣を基礎として成立したものであるが、そのほか学界の有力者および新進気鋭の学徒を既に迎えたし、且つ迎えつゝあるのであつて、教授および助教授の数はかなり多きにのぼつている。物的設備の点では、有名な蔵書家の文庫をすでに二つ三つ譲り受けたが、今後さらに図書の充実に努めるほかに、市立美術館の設備の一部を利用し得る了解を得て、史学、考古学、民俗学、地理学などの資料の整理、陳列を計画し、特に大阪に関係あるものに力を注ぐ予定である。 科目別に云えば、社会学では都市社会学を中心とする実証的研究、心理学では適性や能率などを問題とする産業心理学と、都市の一般および特殊児童の心性を問題とする教育心理学の重視、人文地理学では今後の通商貿易関係の基礎資料として世界諸大陸別の地誌的研究、歴史学では従来の地域別歴史の世界史的観点からする再編成、語学では従来とかく不振であつた中国語の重視、理解と表現との平行する近代語教授方法の刷新、国文学の領域における上方文学の研究、英、仏、独などの古典文学の研究とならんで新興アメリカ文学の研究などが当面の課題として考えられている。なお機関雑誌として月刊「人文研究」がすでに昨年11月から刊行されたことを付記したい。八 大産業都市大阪を地盤として生れた市立綜合大学が工学部をもたないというようなことはあり得ないはずであるが、単なる「工学部」ではなくて「理工学部」が設けられたと云うことは充分な考慮にもとづくことであり、恰もこの点からして理工学部のもつ著しい特色も理解されるのである。 これについては法文学部の場合と比較することが理解に役立つと思う。法文学部には法学科と文学科とがあり、教授も学生もそのいずれかに属することとなつているが、やがて双方の教授陣が充実し、研究施設も整備するに至つたときには、法文学部は二つに分れて、法学部と文学部がそれぞれ独立することになるはずである。これに反して、理工学部は今後永続的に一学部として存立すべきことが予期されているのであつて、法文学部の場合のごとく、いつか将来において二つに分れるべきものが過渡的に一学部を形成しているのとは、根本的に趣を異にする。それでは単なる工学部にくらべて如何なる点に相違するところが見出されるかと云うと、理学部的な研究および教育を基礎として工学的研究・教育を行うことの根本方針とする学部たる点であると答えることができる。 大阪市大の理工学部は、自然科学研究の一中心機関たることを期すると同時に、技術家として将来に伸びて行く能力をそなえた人を養成することを使命とするものである。特に小竹部長の創意によつてその編成が構想され、大いなる抱負をもつ学部として発足した次第である。 一般的教養と専門的教養との有機的な結合を目ざして教育を行う点が新制大学の根本的特色を成

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