大阪市立大学の歴史
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資料183発足するに当り、ここに述べたような事態を特に考慮して、理論と実際との有機的な連結を重視する学風をかたちづくつて行くことを念願して居り、各種の分野において社会の実用に役立つ研究成果を挙げると共に、社会のさまざまの方面の職域において真に有能なはたらきをなし得るような人間を養成することを期しているのであるが、これについては新大学制度の採つている教育方針に言及せざるを得ない。五 新制大学と旧制大学とを比較した場合に、前者の最も著しい特色を成すものとみられる点は、旧制大学においては、各学部に入学した学生が、その所属学部の異なるに応じて最初からそれぞれ特殊の分野における専門の学課目の教育をあたえられ、その学修を続けて卒業するという方式が行われているのと違つて、新制大学においては、学生がいずれの学部を志望するかを問わず、はじめの2年間又は少くとも1年半のあいだは主として一般教育科目を学修するという方式が採用されているのであり、この故に学生は人文科学、社会科学及び自然科学の3者を通じて所定単位数以上の学課目を学修することを要し、しかも学課目の選択の自由が学生にあたえられていることである。新制大学に入学した学生は、4ヶ年にわたる在学期間の前半において諸種の一般的教養科目を学修した上で、既に身につけた一般的・学問的教養を基礎としつゝ在学期間の後半において自己の目指す方面の特殊専門科目を学修することとなるわけである。旧制大学の卒業者はとかく人間として又国民としての1人としてそなえていなければならぬ基礎的な教養に欠けている者が少くないという憾みがあり、かような事柄は従来の日本の大学教育の一大欠陥を成すものとみられる。しかるに、新制大学においては、右に指し示したような方式が採用されることによつて今後の人間的ならびに国民的教養を身につけていると共に専門的な教養をも併せて身につけて居り、新しい日本の社会における中堅層をかたちづくるにふさわしい人々が大学を卒業するに至るべきことが期待される次第である。 かように、一般的教養科目の教育を基礎とし、それとの有機的連絡において各種の専門科目の教育を行うということが新制大学の一大特色を成すべきものと認められているのであるから、新制大学においては一般的教育科目の教育ならびに特殊的専門科目の教育の両者をひとしく重んじて、力を傾注すべきはずである。大阪市立大学においては特に此の点に留意し、新制大学の根本的特色とする所を発揮することを期しているのであるが、文科系及び理科系を通じて6学部を包容していることは、一般的教養科目を担当する教師を確保する上に甚だ好都合であり、しかも成るべく各学部における教授諸氏をして担当せしめる方針を採つている。 すでに発足した新制綜合大学の中には普通の諸学部のほかに教養部と称するものを設けているものがあるけれど、大阪市立大学は謂わゆる教養学部を設けていない。いずれの構成方式がまさつているかは今後の経験に徴して判断されることを要する問題であるが、教養学部を置いている大学の場合について見ると、教養学部所属の教授や助教授には普通の諸学部の教授や助教授に比較して概して学問的能力のより低い人々を選任した嫌いが無いわけではなく、その他諸般の事情から見て教養学部は実質上旧制高等学校の延長たる観を呈している。大阪市立大学が特に教養学部を設ける方針を採らなかつたのは、かような弊害に陥ることを避け、新しい大学制度の革新的性格を尊重する

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